歌川たいじの生い立ちを綴った単行本が実写映画化
漫画家でもあり小説家でも歌川たいじの単行本「母さんがどんなに僕を嫌いでも」が昨年11月に公開され私がいつも行っている映画館で先週から2週間限定で公開されたので行ってきました。公開された昨年に見に行きたかったのですが、近くで公開している映画館が無く、レンタルで借りようと思っていたのですが近場で公開されてよかったです。
今作は歌川たいじ自身の幼少時代に受けた虐めや虐待などを描き、トラウマを抱えながら行きてきた人生を身内ではないが「ばあちゃん」や友人などの助けを得て克服し立ち向かっていく姿が描かれています。
主人公であるタイジを太賀、母を吉田羊。友人のキミツは森崎ウィン、大将は白石隼也、カナを秋月三佳。ばあちゃんを木野花、弟をあかやまはじめと豪華なキャスト陣となっています。
近年の邦画作品の中では上映時間104分と2時間無い作品ですが、その内容はとても濃く見ていて胸が痛くなるようなシーンや泣いたシーンも多かったです。早速ですが感想とレビューを書いていきたいと思います。
壮絶な幼少時代、母さんが大好きな少年の人生が崩れていく瞬間
僕(タイジ)が家を飛び出したのは17歳の頃。そんな17歳になるまでのタイジが映画全般で描かれているのですが、確かに観ていて壮絶でした。
子供の頃のタイジは太っていて学校でも「ブタ」と虐められていた過去があり、家では母親から暴力を振るわれ毎日過ごしていました。それでも「お母さんが好き」という気持ちには変わり無いタイジでしたが、お母さんが変わる事は無く、変わりに父親の職場に来ていた人を「ばあちゃん」と呼ぶ程懐いていました。
母がいつも機嫌が悪い理由は父にあり、タイジが生まれる頃から違う女性と付き合うようになっていた事を母も知っており、それでいつも機嫌が悪い事は子供たちも解っていました。しかし母、僕、姉と遊園地で撮った写真を父に見られたことにより父は「遊園地に行くには車が必要だ、誰と行ったんだ」と僕を叱りロッカーに閉じ込めてしまいます。
僕がバラしたと知った母は僕を「肥満児施設」に1年間預け、その間離婚をし帰ってくる頃には新しい住居に引っ越すと僕を無理やり連れて行く事になるのですが虐待は収まるどころか悪化する事になります。
17歳から現在の僕になるまではトラウマが原因で苦労していた
17歳の頃に家を飛び出し18歳だと偽って精肉工場で働く事になったタイジ。そんな時、ばあちゃんの消息が解り会いに行くが昔のトラウマが消えず「ブタの僕が、今は豚肉の工場にいるんだよ。面白いでしょ」というと、ばあちゃんは悲しげな表情をします。
そんな表情を見て帰ろうとするタイジですが弟から「病気があまり良くない」と知らされると、ばあちゃんが「タイジ」と呼びます。そして「私の最後のお願い。僕はブタじゃないと大きな声で言って」と伝え、タイジは泣きながら「ブタじゃない」と伝えました。
そしてタイジは優良企業に入り営業職に入りカナと知り合い、劇団では第一印象最悪だったキミツと出会い、その後カナの彼氏大将を紹介されダイチの心の壁は徐々に無くなっていく事となります。
友人達と周りの大人たちによって支えられたタイジ
ダイチのトラウマが少しずつ消えた大きな理由は友人や周りの大人たちのサポートや助言があったからだと思います。それは原作者でもある歌川たいじさんも言っており、きっとサポートが無ければ今あるタイジが無かった事でしょう。
キミツはノリは軽くタイジに対し「声から負のオーラが出てる」など初対面からキツい事を言いますがキミツは初対面の時からタイジが無理をして笑顔を作り、本当の自分を出していない事を解っていたのでしょう。誰よりもタイジの事を見ており本当に必要な時はそばに居てあげる。そんな優しさが素敵だと私は感じました。
誰が悪い訳ではない「気づけた時から治せば良い」という言葉
この作品が素敵だと感じたもう一つの理由として「誰かが悪者」というストーリーではないという事でしょうか。虐待をしていた母が悪い。と言えばそこまでなのですがタイジは「なぜ母が僕をそういたのだろう」と母の子供時代を知る人に聞いたりと「昔と今の母を知る事で支えてあげよう」という気持ちになったのは凄い事ですね。
映画の中で「憎み、死んでほしい、地獄に落ちろと思った。でも、母の混ぜご飯が食べたいと思った時に自分で作るしか無かった。今は僕が支えてあげる」という言葉をタイジが言うのですが、そのセリフは胸に残りました。
原作者も「虐待の映画は見たくないという事がありますが、それに背を向け続けると虐待の環境が改善される事はない。もっと社会で子供を守っていく世の中になって欲しいと思います」とコメントしています。
映画のラストは涙必須!
吉田羊と太賀の「母と子」の演技が本当に素晴らしい映画でした。そして今作の主題歌であるゴスペラーズ「Seven SeasJourney」が今作のイメージにピッタリでエンディングロールでは余韻に浸ることが出来ました。
パンフレットでは各出演陣のコメントや原作者である歌川たいじのコメントを掲載されています。原作者から観た今作の出来栄えの話など是非読んでほしいです。